令和8年度診療報酬改定では、小児の咬合機能の獲得に向けた評価が大きく変わります。これまで小児保隙装置は、クラウンループとバンドループだけが600点で評価され、装着後の調整や修理には評価がありませんでした。臨床では可撤式保隙装置(小児義歯)が最も多く使われているにもかかわらず、診療報酬上は一部の症例を除いて原則認められていませんでした。本記事は、この診療実態と評価のギャップを埋める今回の見直しについて、新設項目と算定要件を整理して解説します。
今回の見直しは、装置の「製作」と「装着後の管理」の両面を評価する内容です。第一に、歯科口腔リハビリテーション料1に「3 小児保隙装置の場合 180点」が新設され、装着後の調整と修理が月1回評価されます。第二に、小児保隙装置が「1 固定式保隙装置 850点」と「2 可撤式保隙装置 1,200点」の2区分に再編され、可撤式保隙装置(小児義歯)が新たに位置づけられます。第三に、可撤式保隙装置の算定には5つの症例要件のいずれかへの該当が求められ、診療録と診療報酬明細書の摘要欄への記載が必須となります。
1. 装着後の調整・修理を評価する新区分が誕生
歯科口腔リハビリテーション料1に、小児保隙装置の調整と修理を評価する新区分が設けられます。改定案では「3 小児保隙装置の場合 180点」が新設され、従来の「3」(口蓋補綴・顎補綴により算定した装置を装着している患者が対象)は「4」に繰り下がります。装置を装着したまま経過を診るという小児歯科の日常が、初めて診療報酬上の評価対象となります。
新区分の背景には、保隙装置が装着後に変形や破損を起こしやすいという診療実態があります。保隙装置には恒常的に咬合力がかかるため、ループの先端が舌側に偏位したり、ループが歯肉に埋入したりします。中医協に示された大学病院の実態調査(昭和歯学会雑誌、1997年)では、装着後にみられた不快事項として、可撤式保隙装置の不適合が46.0%、破損が35.5%と報告されています。装置の機能を維持するには定期的な調整と修理が欠かせないにもかかわらず、これまで評価がありませんでした。
算定要件は、対象患者、行為、目的、回数、記載事項の5点で構成されます。対象患者は、区分番号M016-2に掲げる小児保隙装置を装着している患者です。行為は、当該装置の調整または修理です。目的は、正常な咬合関係の獲得です。回数は、月1回に限られます。記載事項として、調整または修理の内容等の要点を診療録に記載します。
回数制限をめぐっては、摂食機能療法との関係に注意が必要です。歯科口腔リハビリテーション料1には、摂食機能療法を算定した日は算定できないという制限と、摂食機能療法の治療開始日から3月を超えた場合は両者を合わせて月6回までとする制限があります。改定案では、この2つの制限がかかる区分が「2及び3」から「2及び4」へと振り替わります。したがって、新設された「3 小児保隙装置の場合」は、条文上いずれの制限の対象にもなりません。区分の繰り下がりを見落とすと、算定可否の判断を誤ります。
2. 小児保隙装置が2区分に再編され、可撤式が新設
小児保隙装置の製作の評価も、装置の種類に応じた2区分へと再編されます。現行の小児保隙装置600点は、改定案で「1 固定式保隙装置 850点」と「2 可撤式保隙装置 1,200点」に分かれます。装置の構造と製作の手間の違いが、点数に反映される形です。
固定式保隙装置は、現行の算定対象をそのまま引き継ぎます。算定できるのは、クラウンループまたはバンドループを装着した場合に限られます。この範囲は改定前と変わらず、点数だけが600点から850点へと引き上げられます。
可撤式保隙装置は、床義歯形態の装置を装着した場合の新しい評価です。従来、小児義歯は先天性無歯症など限られた疾患にしか認められていませんでした。一方で、前述の実態調査では保隙装置の48.6%を可撤式保隙装置(小児義歯)が占め、臨床での主力となっています。今回の見直しは、この可撤式保隙装置を小児保隙装置として正面から位置づけ、1,200点で評価します。
3. 可撤式保隙装置の算定には症例要件と記載が必須
可撤式保隙装置を算定するには、5つの症例要件のいずれかに該当する必要があります。対象となるのは、次の症例です。
イ 両側性の乳臼歯を早期喪失した症例
ロ 片側性の2歯以上の乳臼歯を早期喪失した症例
ハ 片側性乳臼歯1歯欠損であっても、支台歯に加重負担をきたす可能性がある症例
ニ 乳前歯を早期喪失した症例
ホ 永久歯を早期喪失し、将来の補綴処置に備えて保隙を行う必要がある症例
これら5症例のうちどれに該当するかは、記録に残さなければなりません。記載先は、診療録と診療報酬明細書の摘要欄の2か所です。該当症例を特定せずに算定すると、返戻や査定の対象となります。
記載義務は、前述の調整・修理の評価にも共通します。調整・修理では、調整または修理の内容等の要点を診療録に記載します。可撤式保隙装置の製作では、該当する症例区分を診療録と摘要欄に記載します。いずれも「何をしたか」「なぜ算定できるか」を診療録で説明できる状態にしておくことが、算定の前提となります。
まとめ:製作と管理の両輪で小児の咬合機能獲得を支える
令和8年度改定は、小児の咬合機能の獲得を製作と管理の両面から支える内容です。管理面では、歯科口腔リハビリテーション料1に「3 小児保隙装置の場合 180点」が新設され、装着後の調整と修理が月1回評価されます。製作面では、小児保隙装置が固定式850点と可撤式1,200点の2区分に再編され、臨床実態に即した可撤式保隙装置が新たに位置づけられます。算定に当たっては、可撤式保隙装置の5つの症例要件と、診療録および摘要欄への記載を確認してください。










