中央社会保険医療協議会(中医協)総会第640回において、令和8年度診療報酬改定に向けた「これまでの議論の整理(案)」が示されました。この整理案では、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築に向けて、8つの柱から成る具体的な方向性が提示されています。本稿では、この議論の整理案の第Ⅱ章「2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進」の全容を解説します。
今回の改定方針における8つの柱は次のとおりです。第1の柱は「入院医療の評価」で、急性期から療養病棟まで各機能に応じた評価体系の見直しが進められます。第2の柱は「治し、支える医療の実現」で、後方支援・入退院支援・高齢者ケアが推進されます。第3の柱は「かかりつけ医機能等の評価」で、医科・歯科・薬剤師の機能強化が図られます。第4の柱は「外来医療の機能分化」で、大病院と診療所の連携が強化されます。第5の柱は「在宅医療・訪問看護の確保」で、重症患者対応と適正化が両立されます。第6の柱は「人口・医療資源の少ない地域への支援」です。第7の柱は「医療従事者確保のための取組」です。第8の柱は「医師の地域偏在対策」です。
【第1の柱】入院医療の評価|急性期から療養病棟まで
入院医療の見直しは、患者のニーズと病院機能に応じた評価体系の再構築を目指しています。この柱は「患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備」と「人口の少ない地域の実情を踏まえた評価」の2つの項目で構成されます。
医療提供体制の整備(17項目)
急性期医療の評価見直しでは、病院が地域で果たす救急・手術機能に着目した施設基準が新設されます。この新基準では、救急搬送の受入実績や手術件数に基づく体制整備が評価対象となります。重症度、医療・看護必要度についても、救急搬送症例や手術なし症例の適切な評価を進める観点から評価方法が見直されます。総合入院体制加算と急性期充実体制加算は見直され、新たな評価が行われます。人口の少ない地域で救急搬送を担う病院への配慮も行われます。
特定機能病院入院基本料については、高度医療提供の拠点機能と地域医療における役割を評価する観点から区分が見直されます。
特定集中治療室管理料の見直しでは、7つの改定項目が示されています。第一に、救急搬送件数と全身麻酔手術件数に関する病院実績が要件化されます。第二に、宿日直を行う医師を含む治療室の範囲と施設基準が見直されます。第三に、急性冠症候群治療後や心停止蘇生後患者への処置を踏まえ、重症度・医療・看護必要度の項目が見直されます。第四に、SOFAスコア要件が見直されます。第五に、特定機能病院でも重症患者対応体制強化加算が算定可能となります。第六に、特定集中治療室遠隔支援加算の施設基準が見直されます。第七に、広範囲熱傷特定集中治療管理料の区分が統合・簡素化されます。
ハイケアユニット入院医療管理料については、3つの見直しが行われます。救急搬送件数と全身麻酔手術件数に関する病院実績が要件化されます。重症度・医療・看護必要度の項目が見直されます。基準を満たす患者割合の要件も見直されます。
救命救急入院料は、簡素化の観点から区分が統合・整理されます。脳卒中ケアユニット入院医療管理料についても、医療機能に係る実績に応じた要件見直しが行われます。
地域包括医療病棟では、高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受入を推進するため、複数の見直しが行われます。平均在院日数、ADL低下割合、重症度・医療・看護必要度の基準が見直されます。医療資源投入量や急性期病棟の併設状況に応じた評価が導入されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組を推進する観点から、加算体系も見直されます。
回復期リハビリテーション病棟入院料については、より質の高いリハビリテーション医療を推進する観点から施設基準と要件が見直されます。回復期リハビリテーション入院医療管理料と特定機能病院リハビリテーション病棟入院料も同様の見直し対象となります。
療養病棟入院基本料では、患者の病態や医療資源投入量をより適切に反映させる見直しが行われます。医療区分2または3に該当する疾患や状態、処置等の内容が見直されます。療養病棟入院料2については、医療区分2・3の患者割合が引き上げられます。
障害者施設等入院基本料では、2つの見直しが行われます。重度の肢体不自由児(者)に該当しない廃用症候群に係る評価が見直されます。看護補助加算と看護補助体制充実加算についても、看護職員と看護補助者の業務分担・協働および夜間の負担軽減を推進する観点から評価が見直されます。
入院料全般に関わる見直しとして、薬剤料が包括されない薬剤と注射薬の範囲が見直されます。DPC/PDPSについては、医療の標準化・効率化を推進する観点から、診断群分類点数表の改定、医療機関別係数の設定、算定ルールの見直しが行われます。短期滞在手術等基本料については、手術の外来移行を促すとともに実態に即した評価を行うため、対象手術の追加と要件・評価の見直しが行われます。地域加算については、令和6年人事院勧告における地域手当の見直しに伴い、対象地域と評価が見直されます。
人口の少ない地域の実情を踏まえた評価(3項目)
人口の少ない地域への配慮では、3つの対応が示されています。医療資源の少ない地域に配慮した評価では、対象地域と経過措置が見直されます。人口の少ない地域における外来・在宅医療の確保では、地域の外来・在宅診療の確保に係る支援を行い、病状急変時に緊急入院患者を受け入れる体制を有する医療機関に対して新たな評価が創設されます。歯科医療が十分に提供されていない地域等では、地方自治体等と連携して実施する歯科巡回診療車を用いた巡回診療に対して新たな評価が創設されます。
【第2の柱】「治し、支える医療」の実現
「治し、支える医療」の実現に向けて、3つの領域での取組が示されています。在宅療養患者や介護保険施設入所者の後方支援、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的推進が柱となります。
後方支援機能の強化(3項目)
後方支援機能の強化では、3つの見直しが行われます。協力医療機関と協力対象施設との情報共有・カンファレンスの頻度が見直され、業務効率化が図られます。地域包括医療病棟入院料と地域包括ケア病棟入院料については、高齢者救急・在宅医療・介護保険施設の後方支援体制と実績を持つ医療機関がさらに評価されます。地域包括ケア病棟の初期加算については、対象患者の範囲・評価・退院支援に係る包括範囲が見直されます。
円滑な入退院の実現(4項目)
円滑な入退院の実現では、4つの取組が進められます。入退院支援加算等については、関係機関との連携、生活に配慮した支援、入院前からの支援を強化する観点から評価・要件が見直されます。介護支援等連携指導料については、居宅介護支援事業所等の介護支援専門員等との連携強化の観点から要件が見直されます。回復期リハビリテーション病棟入院料には、高次脳機能障害患者の退院支援体制に係る要件が追加されます。感染対策向上加算等については、介護保険施設等への専門的助言を促進する観点から要件が見直されます。
リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的推進(4項目)
リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組では、4つの見直しが行われます。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定要件が見直されます。地域包括医療病棟のリハビリテーション・栄養・口腔連携加算も同様に見直されます。地域包括ケア病棟でもリハビリテーション・栄養・口腔連携加算が算定可能となります。摂食嚥下機能回復体制加算の施設基準における言語聴覚士の専従要件や実績の計算方法が見直されます。療養病棟入院基本料における経腸栄養管理加算についても、対象となる患者の要件が見直されます。
医科歯科連携については、入院患者の口腔状態への対応を推進する観点から新たな評価が創設されます。医科点数表により診療報酬を算定する保険医療機関が歯科医療機関と連携体制を構築し、入院患者が歯科診療を受けられるよう連携した場合が評価対象となります。歯科訪問診療についても、医科保険医療機関からの依頼に基づく入院患者への実施に対して新たな評価が創設されます。
【第3の柱】かかりつけ医機能等の評価(8項目)
かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価では、8つの見直しが示されています。医科、歯科、薬局のそれぞれについて、機能強化と適切な評価が図られます。
かかりつけ医機能については、3つの見直しが行われます。機能強化加算の要件等が見直され、体制整備が推進されます。生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)が見直され、質の高い疾病管理が推進されます。特定疾患療養管理料については、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師による計画的な療養管理を適切に評価する観点から、対象疾患の要件が見直されます。
地域包括診療加算等については、2つの観点から見直しが行われます。対象疾患を有する要介護高齢者等への継続的・全人的な医療を推進する観点と、適切な服薬指導の実施を推進する観点から、対象患者や要件が見直されます。時間外対応加算については、休日・夜間等の問い合わせや受診への対応体制整備を推進する観点から評価が見直されます。
かかりつけ歯科医機能については、2つの見直しが行われます。歯科疾患管理料、小児口腔機能管理料、口腔機能管理料の要件と評価が見直されます。小児口腔機能管理料と口腔機能管理料については、対象患者の範囲も拡大されます。歯周病治療については、ライフコースを通じた継続的・効果的な治療を推進する観点から、歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療の評価体系が見直されます。
かかりつけ薬剤師機能については、本来の趣旨に立ち返り、普及と患者による選択を促進する観点から見直しが行われます。かかりつけ薬剤師指導料と服薬管理指導料の評価体系が見直されます。
【第4の柱】外来医療の機能分化と連携(3項目)
外来医療の機能分化と連携では、大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携による逆紹介の推進が図られます。3つの見直しを通じて、外来機能の明確化と医療機関間の連携が推進されます。
紹介患者・逆紹介患者の割合が低い特定機能病院等については、2つの見直しが行われます。紹介状なしで受診した患者等に係る初診料と外来診療料について、逆紹介割合の基準が引き上げられます。初診料と外来診療料が減算となる対象患者については、頻繁に再診を受けている患者を含むよう見直されます。
診療所または許可病床数200床未満の病院については、新たな評価が創設されます。特定機能病院等からの紹介を受けた患者に対する初診を行った場合が評価対象となります。
連携強化診療情報提供料については、評価体系が見直されます。病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携しながら共同で継続的に治療管理を行う取組が推進されます。
【第5の柱】質の高い在宅医療・訪問看護の確保
在宅医療・訪問看護の確保では、適正な提供体制の構築と質の高い医療提供の両立が図られます。訪問看護の運営基準見直し、重症患者対応の評価、過疎地域への支援など、多岐にわたる改定が行われます。
訪問看護の適正化に向けた基盤整備(3項目)
訪問看護の適正化に向けて、3つの基盤整備が行われます。訪問看護ステーションに作成を求めている記録書の記載内容が明確化されます。指定訪問看護の運営基準に、安全管理と適正な請求等に関する新たな規定が設けられます。療養担当規則において、保険医療機関が特定の訪問看護ステーション等を利用させる対価として財産上の利益を収受することを禁止する規定が新設されます。
重症患者対応を担う医療機関・薬局の評価(13項目)
地域において重症患者の訪問診療や在宅看取り等を担う医療機関・薬局の評価では、13項目の見直しが行われます。在宅緩和ケア充実診療所・病院加算については、名称変更と要件・評価の見直しが行われます。往診時医療情報連携加算の要件が見直され、24時間の在宅医療提供体制を面として支える取組が推進されます。退院直後の訪問栄養食事指導に対する新たな評価が創設されます。連携型の機能強化型在宅療養支援診療所については、自ら医療提供体制を確保している時間に応じた評価が導入されます。在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院については、災害時における在宅患者への診療体制確保の観点から要件が見直されます。
在宅時医学総合管理料と施設入居時等医学総合管理料については、患者の医療・介護の状態を踏まえた適切な訪問診療の提供、安心・安全な医療提供体制の確保の観点から要件が見直されます。在宅療養指導管理材料加算の算定要件も見直されます。医師と薬剤師の同時訪問については、ポリファーマシー対策と残薬対策を推進する観点から新たな評価が創設されます。残薬対策については、地域包括診療加算等並びに在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます。指定訪問看護の運営基準においても残薬対策に係る取組が明確化されます。へき地における在宅医療の提供体制を確保する観点から、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます。
在宅歯科医療については、6つの見直しが行われます。歯科訪問診療1の評価が見直され、急遽診療する必要が生じた場合の運用が明確化されます。歯科訪問診療4と歯科訪問診療5には新たな施設基準が設けられます。在宅療養支援歯科病院の施設基準が見直され、歯科診療所からの依頼により患者を受け入れた場合の実績が要件に加えられます。在宅療養支援歯科診療所と在宅療養支援歯科病院には、歯科訪問診療の研修・教育体制が要件に加えられます。訪問歯科衛生指導料は、指導人数に応じた評価と特別の関係の施設等に対する評価の適正化が図られます。在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料の要件が見直されます。
在宅薬剤管理指導については、2つの見直しが行われます。在宅薬学総合体制加算については、高度な在宅訪問薬剤管理指導を含む必要な体制整備の観点から要件と評価が見直されます。在宅患者訪問薬剤管理指導料については、円滑な実施と実効性の改善に向けて要件が見直されます。
重症患者等への訪問看護の評価(8項目)
重症患者等への訪問看護の評価では、8つの見直しが行われます。特別地域訪問看護加算については、過疎地域等における遠方への移動負担を考慮し、対象となる訪問の要件が見直されます。在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料を算定する利用者については、訪問看護基本療養費等を算定できる回数が見直されます。ICTを活用した診療情報等の活用に対して新たな評価が創設されます。精神科訪問看護については、支援ニーズの高い利用者への対応を担う訪問看護ステーションに対する機能強化型の新たな評価が創設されます。乳幼児加算の評価が見直されます。訪問看護管理療養費の評価が見直されます。訪問看護基本療養費(Ⅱ)等とその加算については、訪問日数や訪問人数等に応じたきめ細かな評価に見直されます。高齢者住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションについては、包括評価体系が新設されます。
【第6の柱】人口・医療資源の少ない地域への支援(4項目・再掲)
人口・医療資源の少ない地域への支援では、4つの対応が示されています。これらはいずれも他の柱で示された内容の再掲となります。
医療資源の少ない地域に配慮した評価については、対象地域と経過措置が見直されます(第1の柱で再掲)。人口の少ない地域における外来・在宅医療提供機能の確保に向けた新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。へき地における在宅医療の提供体制を確保する観点から、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます(第5の柱で再掲)。歯科医療が十分に提供されていない地域等では、歯科巡回診療に対する新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。
【第7の柱】医療従事者確保のための取組(再掲)
医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組については、2つの項目が示されています。これらはいずれも第Ⅰ章で詳述されている内容の再掲となります。
業務の効率化に資するICT・AI・IoT等の利活用の推進が進められます(Ⅰ-2-2再掲)。タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進が図られます(Ⅰ-2-3再掲)。
【第8の柱】医師の地域偏在対策の推進(3項目)
医師の地域偏在対策の推進では、3つの対応が示されています。
医療資源の少ない地域に配慮した評価については、対象地域と経過措置が見直されます(第1の柱で再掲)。人口の少ない地域における外来・在宅医療提供機能の確保に向けた新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。
新たな対応として、改正医療法に基づく都道府県知事の医療提供要請への対応が評価に反映されます。改正医療法に基づき都道府県知事が行う、地域で不足している医療機能等に係る医療提供の要請に応じず、保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関については、地域医療への寄与が不十分との位置付けであることを踏まえ、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料の対象外とするなど、評価が見直されます。
まとめ|2040年に向けた医療提供体制の8つの柱
令和8年度診療報酬改定の議論整理案では、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築に向けて、8つの柱から成る具体的な方向性が示されました。
第1の柱「入院医療の評価」では、急性期から療養病棟まで各機能に応じた評価体系の見直しが進められます。第2の柱「治し、支える医療の実現」では、後方支援・入退院支援・高齢者ケアが推進されます。第3の柱「かかりつけ医機能等の評価」では、医科・歯科・薬剤師の機能強化が図られます。第4の柱「外来医療の機能分化」では、大病院と診療所の連携が強化されます。第5の柱「在宅医療・訪問看護の確保」では、重症患者対応と適正化が両立されます。第6の柱「人口・医療資源の少ない地域への支援」では、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となります。第7の柱「医療従事者確保のための取組」では、ICT活用やタスク・シフティングが推進されます。第8の柱「医師の地域偏在対策」では、改正医療法と連動した評価見直しが行われます。
今後、中医協における議論を経て、具体的な点数設定や施設基準の詳細が決定されます。医療機関経営者、医療従事者、関係者の皆様におかれましては、引き続き議論の動向にご注目ください。










