令和8年1月14日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第641回)において「令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)」が示されました。この資料は、令和7年12月9日に社会保障審議会医療保険部会・医療部会でとりまとめられた「令和8年度診療報酬改定の基本方針」を踏まえ、中医協における議論を整理したものです。今後の中医協における議論により変更が加えられる可能性がありますが、改定の方向性を把握する上で重要な資料となっています。
今回の議論整理では、4つの大きな柱が示されました。第1の柱は「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」であり、重点課題として位置づけられています。第2の柱は「2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進」です。第3の柱は「安心・安全で質の高い医療の推進」、第4の柱は「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」となっています。
【重点課題】物価・賃金・人手不足への対応
今回の改定で最も重視されているのが、医療機関等を取りまく環境変化への対応です。この柱では、物価高騰への対応、医療従事者の処遇改善、業務効率化の3つの観点から施策が整理されています。
物価高騰への対応として、初・再診料等および入院基本料等の見直しが行われます。令和8年度および令和9年度における物件費の更なる高騰に対応するため、医療機能を踏まえた新たな評価が導入されます。入院時の食費および光熱水費の基準額も引き上げられ、嚥下調整食についても新たな評価が設けられます。
医療従事者の処遇改善では、看護職員・病院薬剤師その他医療関係職種の賃上げを更に推進します。令和6年度改定で入院基本料や初・再診料により賃上げ原資が配分された職種についても、実効性が確保される仕組みを構築する方針です。看護職員の夜勤負担軽減についても、夜間配置加算等において負担軽減や処遇改善に資する計画の立案と体制整備を促進するよう要件が明確化されます。
業務効率化の推進では、ICT・AI・IoT等の利活用が重要な柱となっています。看護業務における見守り、記録、情報共有においてICT機器等を組織的に活用した場合、入院基本料等の看護職員配置基準が柔軟化されます。医師事務作業補助体制加算の人員配置基準も柔軟化され、様式の簡素化や署名・記名押印の見直しも進められます。
タスク・シェアリング/タスク・シフティングでは、重症度・医療・看護必要度の高い高齢者等が主に入棟する病棟において、看護職員や他の医療職種が協働して病棟業務を行う体制について新たな評価が設けられます。医師の働き方改革の推進と診療科偏在対策として、外科医師等の減少に対応するため、診療科偏在が課題となっている診療科の医師の勤務環境・処遇改善を図りつつ、高度な医療を提供する医療機関等への新たな評価も行われます。
2040年を見据えた医療機関の機能分化・連携
第2の柱では、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築に向けた施策が整理されています。入院医療の評価、在宅医療・訪問看護の確保、外来医療の機能分化と連携、人口・医療資源の少ない地域への支援など、多岐にわたる内容が含まれています。
入院医療の評価では、地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目した評価が導入されます。病院の機能に着目した施設基準を設け、体制整備も含めた新たな評価が行われます。重症度・医療・看護必要度による評価方法も見直され、救急搬送症例や手術なし症例における適切な評価が進められます。
総合入院体制加算および急性期充実体制加算は見直され、新たな評価が行われます。人口の少ない地域において救急搬送の受入を最も担う病院については特に配慮されます。特定集中治療室管理料やハイケアユニット入院医療管理料についても、救急搬送件数および全身麻酔手術件数に関する病院の実績が要件化されるなど、医療機能に係る実績に応じた評価へと見直されます。
地域包括医療病棟では、高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受入を推進する観点から、平均在院日数、ADL低下割合および重症度・医療・看護必要度の基準が見直されます。医療資源投入量や急性期病棟の併設状況に応じた評価も導入され、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取組を推進する観点から加算の体系も見直されます。
「治し、支える医療」の実現に向けては、介護保険施設や在宅医療機関の後方支援を行う医療機関の評価が強化されます。協力医療機関に対して求めている協力対象施設との情報共有・カンファレンスの頻度が見直され、地域包括医療病棟入院料および地域包括ケア病棟入院料についても高齢者救急、在宅医療および介護保険施設の後方支援体制を更に評価する方針です。
入退院支援においては、関係機関との連携、生活に配慮した支援および入院前からの支援を強化する観点から、入退院支援加算等の評価や要件が見直されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取組を更に推進するため、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定要件も見直されます。
かかりつけ医機能・かかりつけ歯科医機能・かかりつけ薬剤師機能の評価も強化されます。機能強化加算の要件等が見直され、生活習慣病管理料(Ⅰ)および(Ⅱ)も見直されます。かかりつけ薬剤師指導料および服薬管理指導料については、かかりつけ薬剤師の本来の趣旨に立ち返り、普及および患者による選択を促進する観点から評価体系が見直されます。
外来医療の機能分化と連携では、紹介患者・逆紹介患者の割合が低い特定機能病院等を紹介状なしで受診した患者等に係る初診料および外来診療料について、逆紹介割合の基準が引き上げられます。頻繁に再診を受けている患者も減算対象に含められるよう見直されます。
在宅医療・訪問看護の確保では、在宅緩和ケア充実診療所・病院加算について名称変更と要件・評価の見直しが行われ、積極的役割を担う医療機関を更に評価する方針です。地域における24時間の在宅医療提供体制を面として支える取組を推進するため、往診時医療情報連携加算の要件も見直されます。訪問看護については、過疎地域等における遠方への移動負担を考慮し、特別地域訪問看護加算の対象となる訪問の要件が見直されます。
人口・医療資源の少ない地域への支援として、医療資源の少ない地域の対象となる地域および経過措置が見直されます。地域の外来・在宅診療の確保に係る支援を行い、病状の急変等により緊急で入院が必要となった患者を受け入れる体制を有する医療機関について新たな評価が設けられます。歯科医療が十分に提供されていない地域等では、地方自治体等と連携した歯科巡回診療車を用いた巡回診療についても新たな評価が行われます。
安心・安全で質の高い医療の推進
第3の柱では、医療安全、医療DX、リハビリテーション、重点分野への対応など、医療の質向上に関する施策が整理されています。
身体的拘束の最小化の推進として、質の高い取組を行う場合の体制について新たな評価が設けられるとともに、身体的拘束を行った日の入院料の評価が見直されます。認知症ケア加算についても評価が見直され、認知症を有する患者へのアセスメントやケアの充実を図りながら身体的拘束の最小化の取組が推進されます。医療安全対策加算の要件および評価も見直されます。
医療DXやICT連携の活用では、診療録管理体制加算、医療情報取得加算および医療DX推進体制整備加算の評価が見直されます。電子処方箋システムによる重複投薬等チェックの利活用も推進され、情報通信機器を用いた診療において向精神薬を処方する場合には電子処方箋管理サービス等による重複投薬等チェックが要件化されます。
オンライン診療では、D to P with Nによる診療の適正な推進の観点から、診療時の看護職員の訪問に関する評価、訪問看護療養費等との併算定方法や検査・処置等の算定方法が明確化されます。D to P with Dによるオンライン診療についても、遠隔連携診療料の対象疾患が見直され、入院および訪問診療における活用について新たな評価が設けられます。
リハビリテーションの質向上として、入院直後における早期リハビリテーション介入の推進および効果的なリハビリテーションを推進する観点から、より早期に開始するリハビリテーションが評価されます。休日であっても平日と同様のリハビリテーションを推進する観点から、休日におけるリハビリテーションについて新たな評価が設けられます。
救急医療では、夜間休日を含めた応需体制の構築および地域の救急医療に関する取組等の現状を踏まえ、院内トリアージ実施料および夜間休日救急搬送医学管理料等が見直されます。救急外来医療を24時間提供するための人員や設備、検査体制等に応じた新たな評価も行われます。
小児・周産期医療では、母体・胎児集中治療室管理料の要件が見直され、新生児特定集中治療室管理料2については低出生体重児の新規入院患者数に関する実績基準が見直されます。分娩件数の減少に伴い、母子の心身の安定・安全に配慮した産科における管理や継続ケアを行う体制について新たな評価が設けられます。
がん医療および緩和ケアでは、外来腫瘍化学療法診療料の要件が見直され、皮下注射を実施した場合についても評価されます。がんゲノムプロファイリング評価提供料および検査については、エキスパートパネルを省略可能な症例に係る知見の集積を踏まえ、要件および評価が見直されます。末期呼吸器疾患患者および終末期の腎不全患者等に対する緩和ケアについても評価の対象に加えられます。
精神医療では、多職種の配置による質の高い精神医療の提供を推進する観点から、急性期等の入院料における精神保健福祉士、作業療法士または公認心理師の病棟配置について新たな評価が設けられます。精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に貢献する医療機関の確保に向け、小規模医療機関または病床数を削減する取組を行っている医療機関が多職種配置等による質の高い入院医療を行うことについて新たな評価が設けられます。
感染症対策では、抗菌薬の適正使用を推進する観点から薬剤感受性検査の要件が見直されます。感染対策向上加算1について、微生物学的検査室を有する医療機関に対する新たな評価が設けられます。結核病棟と一般病棟を併せて1看護単位とする「ユニット化病床」等における重症度・医療・看護必要度等の対象となる患者の範囲等も見直されます。
歯科医療では、障害者の歯科治療を推進する観点から、障害者歯科治療を専門に担う歯科医療機関が歯科医学的管理を行った場合について新たな評価が設けられます。CAD/CAMインレーおよびCAD/CAM冠の活用が更に進むよう、大臼歯の咬合支持等の要件が見直されます。
薬局・薬剤師業務では、保険薬局が立地に依存する構造から脱却し、薬剤師の職能発揮を促進する観点から調剤基本料が見直されます。地域支援体制加算の要件も見直され、調剤管理料は内服薬の調剤日数による4区分が見直されます。
効率化・適正化による医療保険制度の持続可能性向上
第4の柱では、医療保険制度の安定性・持続可能性の向上に向けた施策が整理されています。後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、費用対効果評価制度の活用、医薬品の適正使用などが含まれています。
後発医薬品・バイオ後続品の使用促進として、処方等に係る評価体系が見直されます。バイオ後続品使用体制加算の要件も見直され、薬局におけるバイオ後続品の調剤体制の整備および患者への説明について新たな評価が設けられます。長期収載品の選定療養については、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、創薬イノベーションの推進や後発医薬品の更なる使用促進に向けて患者負担が見直されます。
医薬品の安定供給については、主に後発医薬品において不安定な供給が発生している課題に対応するため、医薬品の安定供給に資する体制について新たな評価が設けられます。
費用対効果評価制度の活用については、費用対効果評価専門部会の議論を踏まえた「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子」に基づき対応が行われます。
医薬品の適正使用では、ポリファーマシー対策が途切れてしまうことを防止する観点から、病院薬剤師による施設間の薬剤情報連携が促進されるよう、薬剤総合評価調整加算の要件および評価が見直されます。在宅医療におけるポリファーマシー対策および残薬対策を推進するため、医師と薬剤師が同時訪問することについて新たな評価も設けられます。
処方箋様式については、患家に残薬があることを確認した場合に保険医療機関と保険薬局が連携して円滑に処方内容を調整できるよう見直されます。長期処方およびリフィル処方箋による処方を適切に推進する観点から、計画的な医学管理を継続して行うこと等を評価する医学管理料の要件も見直されます。
まとめ
令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)では、物価・賃金・人手不足への対応を重点課題として、2040年を見据えた医療提供体制の構築、安心・安全で質の高い医療の推進、医療保険制度の持続可能性向上という4つの柱で改定の方向性が示されました。
今回の改定では、物価高騰による医療機関等の経営悪化への対応と医療従事者の処遇改善が急務とされ、ICT・AI・IoT等の活用による業務効率化も重要な施策として位置づけられています。2040年頃を見据えた新たな地域医療構想の考え方を踏まえ、医療機関の機能分化・連携と「治し、支える医療」の実現に向けた評価体系の見直しも進められます。
なお、「令和8年度診療報酬改定の基本方針」に含まれていた「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直し」については、中医協において議論が行われていないため、今回の議論の整理には含まれていません。この点については、社会保障審議会医療保険部会における議論や令和8年度予算案に係る「大臣折衝事項」(令和7年12月24日)を踏まえ、今後必要に応じて中医協でも議論される予定です。
今後、中医協における議論を経て、改定の詳細が決定されます。医療機関経営においては、この方向性を踏まえた体制整備の検討を進めることが重要です。特に、ICT活用による業務効率化、地域における自院の役割の明確化、かかりつけ医機能の強化などは、早期から取り組むべき課題といえるでしょう。










