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急性期入院医療の転換点:令和8年度診療報酬改定に向けた3つの論点
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急性期入院医療の転換点:令和8年度診療報酬改定に向けた3つの論点

入院基本料の見直しと地域医療構想を踏まえた急性期機能の最適化戦略

入院・外来医療等の調査・評価分科会は、急性期入院医療の現状分析を通じて、令和8年度診療報酬改定に向けた重要な論点を明らかにしました。看護配置7対1の病床数が令和6年に大きく減少し、急性期医療の機能分化が加速している現状において、地域医療の持続可能性を確保するための制度設計が求められています。本報告では、一般的な急性期機能、拠点的な急性期機能、そして専門病院・離島等の特殊な医療提供体制という3つの視点から、急性期入院医療の課題と改革の方向性を整理します。

調査結果は、急性期入院医療における3つの重要な転換点を示しています。第一に、急性期一般入院料1算定病院の約半数がケアミックス病院となり、医療機能の複合化が進んでいます。第二に、人口20万人未満の二次医療圏の約8割で急性期充実体制加算等の届出病院が存在せず、地域格差が顕在化しています。第三に、救急搬送受入件数と手術実施件数にばらつきが見られ、同じ入院料区分でも医療資源投入量に大きな差が生じています。

一般的な急性期機能の実態と評価の必要性

急性期一般入院料1を算定している病院の分析により、同規模の医療機関でも救急搬送受入件数や手術実施件数に大きなばらつきが存在することが判明しました。人口20万人未満の二次医療圏では、救急搬送件数は比較的少ないものの、地域の救急搬送の多くをカバーする最大救急搬送受入医療機関の地域シェア率が高い傾向にあります。この地域シェア率という指標は、単純な件数だけでは評価できない地域医療への貢献度を示す重要な指標となっています。

夜間・深夜の救急搬送受入体制にも医療機関間で大きな差が見られました。急性期一般入院料1算定病院では夜間・深夜の受入割合が高い傾向にありますが、深夜の受入割合は10~30%の病院が多く、医療機関によってばらつきがあります。救急搬送受入件数が多い病院ほど医業費用が増加し、医業利益率が低下する傾向も明らかになり、救急医療提供に対する適切な評価の必要性が示されています。

DPC制度への参加状況も重要な論点となっています。DPC制度により算定する病床は急性期一般入院基本料等の約85%を占める一方で、約1,800の医療機関は出来高算定を継続しています。分科会では、急性期入院医療の標準化と地域医療機能の適正評価の観点から、急性期一般病棟のDPC制度参画を推進すべきとの意見が出されています。

拠点的な急性期機能の再定義と統合の方向性

総合入院体制加算と急性期充実体制加算を算定している病院は、主に人口20万人以上の二次医療圏に集中しており、地域による偏在が顕著です。救急搬送件数4,000件以上の病院では多くがいずれかの加算を算定していますが、加算を算定していない病院でも地域の救急搬送の半数以上をカバーしている事例が確認されています。この事実は、現行の加算要件が必ずしも地域医療への貢献度を反映していない可能性を示唆しています。

両加算の比較分析により、施設基準に共通部分が多く、実績要件の充足状況も類似していることが明らかになりました。総合入院体制加算1と急性期充実体制加算1では、救命救急センター等の体制整備や全身麻酔手術件数等で共通する基準がある一方、総合的な診療体制は総合入院体制加算1でのみ、手術実績等は急性期充実体制加算1でのみ求められています。14日間で算定できる点数総額は、総合入院体制加算1が急性期充実体制加算1より低く設定されており、評価の不整合が生じています。

人口の少ない地域における拠点病院の課題も浮き彫りになりました。総合入院体制加算3を届け出ている病院の約15%は人口の少ない地域に属しており、地理的事情から症例や医療従事者を集約しても実績要件を満たすことが困難な状況にあります。分科会では、地域性に配慮した評価体系の構築や、両加算の統合による制度の簡素化と機能の明確化が提案されています。

専門病院・離島等の特殊な医療提供体制への対応

200床未満の専門病院では、救急搬送件数は少ないものの全身麻酔手術件数が多い傾向が確認されました。特に子ども病院では、同じ救急搬送件数を受けている一般病院と比較して全身麻酔手術件数が多い一方、地域シェア率が4分の1を超える医療機関は存在しませんでした。これらの専門病院は、地域の救急医療を面的にカバーするのではなく、特定の専門領域で高度な医療を提供する役割を担っています。

有人離島からなる二次医療圏の病院では、救急搬送受入件数が少なく、年間3,000件を超える病院が存在しない実態が明らかになりました。離島医療においては、現場でできることに限界があり、患者搬送機能の向上やリモート診療の活用など、本土とは異なる医療提供体制の構築が必要です。分科会では、離島の最前線で頑張る医療機関と、離島からの患者流入を受け入れる本土の医療機関の双方を適切に評価する必要性が指摘されています。

へき地医療拠点病院の約半数は20万人未満の二次医療圏に所在し、総合入院体制加算や急性期充実体制加算を届け出ていないものの、主要3事業を実施しており、加算算定病院と実施状況に大きな違いは見られませんでした。この事実は、現行の加算体系が地域医療の実態を十分に反映していない可能性を示しており、地域特性を考慮した新たな評価指標の必要性を示唆しています。

急性期入院医療改革の展望と課題

入院・外来医療等の調査・評価分科会の検討結果は、急性期入院医療が大きな転換期を迎えていることを明確に示しています。看護配置7対1病床の減少と急性期機能の分化が進む中で、地域医療の持続可能性を確保するためには、救急搬送受入の実態に応じた評価、地域シェア率を考慮した新たな指標の導入、そして総合入院体制加算と急性期充実体制加算の統合による制度の簡素化が必要です。令和8年度診療報酬改定では、これらの課題に対する具体的な制度設計が求められており、地域特性に配慮しつつ、医療機能の明確化と適正配置を促進する改革が期待されています。

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