令和8年度診療報酬改定は、質の高い精神医療を推進する観点から、認知療法・認知行動療法の要件と評価を見直しました。見直しの背景には、医師及び看護師が共同して行う場合の算定実績が伸び悩んだ事実があります。この類型は毎回の看護師面接後に医師の面接を求めており、届出医療機関数は令和6年8月1日時点で7施設、算定件数は令和6年8月審査分で12件にとどまりました(中央社会保険医療協議会「個別事項について(その13)精神医療②」による。算定件数は1か月分の数値です)。本稿は、今回の見直しを3つのポイントに整理し、医療機関が届出と算定の準備を進める際の判断材料を示します。
今回の見直しは、多職種による実施を後押しする方向で、算定要件・施設基準・対象手法の3点を変更しました。第1のポイントは、医師及び看護師が共同して行う場合について、毎回医師が患者と5分以上面接する要件を廃止した点です。第2のポイントは、公認心理師による心理支援を伴う場合を330点で新設した点です。第3のポイントは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知処理療法を新たに評価の対象に加えた点です。
1.医師及び看護師が共同して行う場合の要件緩和
医師及び看護師が共同して行う場合(350点)の見直しは、毎回の医師面接の廃止、面接録音の廃止、看護師の経験要件の緩和という3点で構成されます。いずれも、看護師が中心となって一連の治療を担いやすくするための緩和です。点数そのものは350点で据え置かれました。対象患者も変更されず、入院中の患者以外のうつ病等の気分障害の患者に限られます。
毎回の医師面接を求める要件は廃止されました。現行の留意事項通知は、看護師による30分を超える面接の後に、当該療法に習熟した医師が5分以上の面接を行うことを算定の条件としています。改定後は、この5分以上の面接を求める記載が削除され、看護師により30分を超える面接が行われた場合に算定できます。ただし、初回時と治療終了時を予定する回の面接は、引き続き専任の医師が実施し、専任の看護師が同席する必要があります。
面接内容の録音を求める要件も廃止されました。現行の要件は、看護師が面接を実施する場合に、患者の同意を得た上で内容を録音し、専任の医師がその内容を指示又は指導の参考とすることを求めています。改定後は、この録音に関する規定が削除されます。日々の運用における記録作業の負担は、この削除によって軽くなります。
看護師の経験要件は、水準を下げる方向で緩和されました。現行の施設基準は、認知療法・認知行動療法1の届出医療機関の外来に2年以上勤務し、面接に120回以上同席した経験を求めています。改定後の同席回数は60回以上に緩和されます。自ら実施した実績の要件も、10症例120回以上から5症例60回以上に緩和され、あわせて面接を録画・録音して医師又は研修講師の確認と指導を受ける要件が削除されます。一方で、対象となる看護師は「専任の看護師」から「専任の常勤看護師」に改められる点に注意が必要です。
2.公認心理師による心理支援を伴う場合の新設
公認心理師による心理支援を伴う場合は、「3」として330点で新設されました。医療機関が押さえるべき内容は、算定要件、施設基準、「2」との共通ルールの3点です。新設の根拠には、認知行動療法的アプローチを用いた専門的な心理支援が、基本的な心理支援よりも短期間で患者の状態を改善したとする中央社会保険医療協議会の提出データがあります。
算定要件は、医師の関与と実施者の勤務経験を軸に定められました。算定の前提として、認知療法・認知行動療法に習熟した医師が一連の治療に関する計画を作成し、患者に説明を行います。その上で医師が必要と判断した場合に、公認心理師が計画に基づく30分を超える面接を実施したときに算定できます。実施する公認心理師は、認知療法・認知行動療法を実施している保険医療機関において週1日以上常態として勤務し、かつ所定労働時間が週22時間以上の勤務を2年以上行った経験のある専任の者に限られます。複数の実施医療機関で勤務する場合は、それらの勤務を合算して判断します。算定回数の上限は、他の類型と同じく一連の治療につき16回です。
施設基準は、認知療法・認知行動療法1の基準に加えて、公認心理師の配置と経験を求めます。配置要件は、当該保険医療機関内に専任の常勤公認心理師を1名以上勤務させることです。経験要件は2つあり、1つは認知療法・認知行動療法1の届出医療機関の外来に2年以上勤務し、面接に60回以上同席した経験です。もう1つは、うつ病等の気分障害、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害又は神経性過食症の患者に対して、認知行動療法的アプローチに基づく心理支援に係る面接を過去に5症例60回以上実施した経験です。さらに研修の修了も要件となり、その研修は、国・関係学会・医療関係団体等が主催して修了証が交付されること、認知行動療法の基本的技能に係る内容を含む2日以上のものであること、厚生労働省の「認知行動療法研修事業」でスーパーバイザーを経験した者が講師に含まれることの3つを満たす必要があります。
運用ルールは、「2」と「3」で共通に整理されました。初回時と治療終了時を予定する回の面接は、専任の医師が実施し、専任の看護師又は公認心理師が同席します。初回から治療を終了するまでの間の面接は、初回時に同席した看護師又は公認心理師が実施します。点数の扱いも共通で、「1」「2」「3」は一連の治療において同一の点数を算定します。この取扱いは、現行の「1」及び「2」に関する規定に「3」を加えたものです。例外として、医師と看護師又は公認心理師が同席して30分以上の面接を行った日に限り、「1」の480点を算定できます。
3.PTSDに対する認知処理療法の追加
心的外傷後ストレス障害に対する認知療法・認知行動療法では、認知処理療法を用いた場合が新たに評価されます。この見直しは、算定の際に準拠すべきマニュアルの選択肢を広げるものです。点数や算定回数の変更はありません。
準拠すべきマニュアルには、認知処理療法実施マニュアルが追加されました。現行の留意事項通知は、厚生労働科学研究班作成の「PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル〔持続エクスポージャー療法/PE療法〕」に従って行った場合に限り算定できると定めています。改定後は、これに加えて、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター研究班作成の「認知処理療法実施マニュアル」に従った場合も算定できます。PTSD患者への治療選択肢は、この追加によって診療報酬上も広がります。
まとめ:多職種で担う体制づくりが算定の前提になる
令和8年度改定は、認知療法・認知行動療法を多職種で提供しやすくする方向で3点を見直しました。第1に、医師及び看護師が共同して行う場合は、毎回の医師面接と面接録音の要件が廃止され、看護師の経験要件も緩和されます。第2に、公認心理師による心理支援を伴う場合が330点で新設され、専任の常勤公認心理師の配置と経験・研修の要件が定められます。第3に、PTSDに対する認知処理療法が新たに評価の対象となります。届出を検討する医療機関は、看護師と公認心理師の勤務形態、同席と実施の経験回数、研修修了証の有無を早めに確認してください。










