令和6年度診療報酬改定は、20歳未満の精神疾患患者を多職種で支える体制を評価するため、通院・在宅精神療法に児童思春期支援指導加算を新設しました。しかし、この加算の届出は全国で伸び悩んでいます。届出医療機関が3施設以下の県は16県にのぼり、未届の理由としては医師や多職種の配置の困難とともに患者数の少なさが挙げられました。そこで令和8年度診療報酬改定は、児童思春期の精神疾患患者の受入体制をさらに確保する観点から、同加算の要件と評価を見直します。本稿は、この見直しの内容を、改定前後の対比と届出実務の視点から整理します。
見直しの柱は、実績要件の水準に応じて加算を2区分に細分化した点にあります。第一に、改定案は従来の1区分を児童思春期支援指導加算1と児童思春期支援指導加算2に分けます。第二に、加算1は従来と同じ「過去6か月間の初診20歳未満患者が月平均8人以上」を実績要件とし、点数を全区分で引き上げます。第三に、加算2は「過去3か月間の初診20歳未満患者が月平均4人以上」を実績要件とし、加算1より低い点数を設定します。第四に、医師と多職種の配置要件および研修要件は、加算1と加算2で共通です。以下、この4点を順に解説します。
1. 見直しの背景:届出が伸び悩む実態
見直しの背景には、新設から間もない児童思春期支援指導加算が、地域によってはほとんど広がっていない実態があります。厚生労働省保険局医療課の調べ(令和7年8月1日時点)によると、届出医療機関が3施設以下にとどまる県は16県に達しました。つまり、加算の恩恵が届いていない地域が全国に相当数残っています。
この状況について、医療機関は複数の理由を挙げています。令和6年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査「精神医療等の実施状況調査」は、未届の理由を複数回答で尋ねました。回答割合の高い順に並べると、次のとおりです。
▼未届の理由(病院n=300/診療所n=204)
適切な研修を修了した精神科の専任の常勤医師の配置が困難
病院54.7%/診療所50.0%
保健師等のうち2名かつ2職種以上の配置が困難
病院46.7%/診療所37.3%
患者が少なく、過去6か月間に初診を実施した20歳未満の患者数が月平均8人未満
病院42.0%/診療所36.8%
児童思春期の患者の診療に習熟した医師がいない
病院39.3%/診療所32.4%
一定の患者数はいるが、月ごとの偏りで満たせない時期がある
病院14.3%/診療所16.2%
これらの理由のうち、今回の見直しが対応するのは患者数の実績要件だけです。医師や多職種の配置に関する要件は、改定案でも緩和されません。中央社会保険医療協議会でも、支払側(1号側)委員が「患者数が少ない地域があることを踏まえ、患者数の実績要件に応じて評価を細分化するべき」と意見を述べています。改定案の2区分化は、この議論の帰結にあたります。
2. 加算1と加算2の区分:実績要件だけが分かれ目
改定案は、児童思春期支援指導加算を加算1と加算2の2区分に分け、両者を実績要件だけで区別します。したがって、体制に関する要件は2区分で完全に共通です。この構造を理解すると、自院がどちらの区分に該当するかを短時間で判定できます。
共通となる体制要件は、医師配置、多職種配置、研修の3項目です。第一に、児童思春期の患者に対する精神医療に係る適切な研修を修了した精神科の専任常勤医師を、1名以上配置します。週3日以上かつ週22時間以上勤務する専任の非常勤医師2名以上の組み合わせによる常勤換算も、従来どおり認められます。第二に、当該支援に専任の保健師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、精神保健福祉士または公認心理師を、2名以上かつ2職種以上配置します。このうち1名以上は、適切な研修を修了した者でなければなりません。第三に、適切な研修は、国または医療関係団体等が主催する15時間以上の研修であり、診察・治療・家族面接・発達障害の支援・多職種の業務および連携を講義と演習で扱い、複数職種によるグループワークやディスカッション等を含む必要があります。加算2の施設基準は、この3項目をそのまま準用します。
一方、分かれ目となる実績要件は、患者数の水準と評価期間の両方で異なります。加算1は、過去6か月間に初診を実施した20歳未満の患者数が月平均8人以上であることを求めます。この水準は現行と同一です。加算2は、過去3か月間に初診を実施した20歳未満の患者数が月平均4人以上であることを求めます。加算2は、患者数の水準を半分に下げたうえで、評価期間を6か月から3か月に短縮します。この短縮により、加算2の該当判定は直近3か月の実績で行われます。
なお、告示上の施設基準も文言が改まります。現行の「必要な体制及び実績を有していること」は、改定案で「必要な体制及び十分又は必要な実績を有していること」となります。ただし、どちらの表現がどちらの区分に対応するかは、改定案の記載からは特定できません。この点は今後の告示・通知で確認する必要があります。
3. 点数体系:加算1は引き上げ、加算2は新設
点数体系では、加算1が全区分で引き上げとなり、加算2は加算1より低い水準で新設されます。両区分とも、60分以上の通院・在宅精神療法を行った場合を最上位に置き、それ以外の場合を経過期間で2段階に分ける構成です。ただし、経過期間の区切りは加算1が2年、加算2が1年であり、両者で異なります。
加算1の点数は、現行の児童思春期支援指導加算を各区分で上回ります。
▼児童思春期支援指導加算1(カッコ内は現行点数)
60分以上の通院
在宅精神療法(最初に受診した日から3月以内)
1,100点(現行1,000点)
上記以外で、最初に受診した日から2年以内
490点(現行450点)
上記以外
290点(現行250点)
加算2の点数は、加算1の水準を下回ります。
▼児童思春期支援指導加算2(新設)
60分以上の通院
在宅精神療法(最初に受診した日から3月以内)
500点
上記以外で、最初に受診した日から1年以内
400点
上記以外
100点
上記の「最初に受診した日」は、当該保険医療機関の精神科を最初に受診した日を指します。施設基準の「初診を実施した20歳未満の患者の数」とは別の概念であるため、両者を混同しないよう注意してください。
算定上の取扱いも、区分の新設に合わせて整理されます。60分以上の通院・在宅精神療法に係る点数は、加算1・加算2のいずれも1回に限り算定します。また、通院・在宅精神療法の注3または注4に規定する加算を算定した場合は、児童思春期支援指導加算を算定できません。この併算定の制限は、現行から変わりません。
4. 届出実務:未届施設は加算2、届出済施設は加算1
届出実務では、現在の届出状況に応じて対応が2通りに分かれます。未届の医療機関は、加算2による新規届出を検討します。届出済の医療機関は、加算1への切替えを前提に実績を確認します。いずれの場合も、判断の起点は自院の初診患者数です。
未届の医療機関がまず確認すべきは、直近3か月間の初診20歳未満患者数です。この3か月で月平均4人以上を満たせば、体制要件をクリアしている限り加算2を届け出られます。特に、医師と多職種を配置しながら月平均8人の壁で届出を見送ってきた施設にとって、加算2は現実的な選択肢となります。一方、体制要件を満たしていない施設は、研修修了者の確保から着手する必要があります。研修は15時間以上と定められているため、計画的な受講調整が欠かせません。
届出済の医療機関が確認すべきは、加算1の実績要件を維持できるかどうかです。加算1の実績要件は現行と同一水準であるため、通常は継続して算定できます。ただし、初診患者数が月平均8人を割り込んだ場合には、加算2への移行を検討することになります。この場合、点数は患者ごとに次のように下がります。
▼加算1から加算2へ移行した場合の点数の変化
60分以上の通院
在宅精神療法
1,100点から500点へ
最初に受診した日から1年以内の患者
490点から400点へ
最初に受診した日から1年を超え2年以内の患者
490点から100点へ
加算1と加算2では経過期間の区切りが異なるため、患者層ごとに影響額を試算しておくと安全です。特に、通院期間が1年を超え2年以内の患者では、点数の下げ幅が最も大きくなります。
なお、本稿の内容は個別改定項目(いわゆる短冊)の段階の情報です。算定要件の細目や届出様式は、今後発出される告示・通知で確定します。実際の届出にあたっては、必ず正式な通知を確認してください。
まとめ:実績要件の細分化で受入体制の裾野を広げる
令和8年度診療報酬改定は、児童思春期支援指導加算を加算1と加算2の2区分に細分化します。この見直しは、届出医療機関が3施設以下の県が16県にのぼる状況と、未届の理由に患者数の少なさが挙げられた調査結果に基づきます。加算1は、過去6か月間の初診20歳未満患者が月平均8人以上という現行水準を維持したうえで、点数を全区分で引き上げます。加算2は、過去3か月間の初診20歳未満患者が月平均4人以上という緩和された実績要件を新設し、加算1より低い点数を設定します。体制要件は2区分で共通であるため、医療機関は自院の初診患者数を確認するだけで該当区分を判定できます。児童思春期の精神疾患患者の受入体制を全国に広げる一歩として、自院の実績を早めに点検しておきましょう。










