令和8年度診療報酬改定では、入院料に薬剤料が包括される病棟において、出来高算定が認められる「除外薬剤・注射薬」の範囲が大幅に見直されます。この見直しの背景には、生物学的製剤やJAK阻害薬など高額薬剤を使用する患者の増加に伴い、包括払い病棟での受入れが困難になっている現状があります。本稿では、今回の改定における除外薬剤・注射薬の範囲見直しについて、7つの改定ポイントを解説します。
今回の改定では、主に3つの重要な変更が行われます。第一に、回復期リハビリテーション病棟入院料などの除外薬剤に抗悪性腫瘍剤、医療用麻薬、腎性貧血治療薬が追加され、地域包括ケア病棟入院料等と包括範囲が統一されます。第二に、各入院料共通の除外薬剤として、生物学的製剤とJAK阻害薬が新たに加わります。第三に、複数に分かれていた除外薬剤の別表が一つに整理・統合されます。
改定の背景:高額薬剤が患者の円滑な入棟を阻んでいた
今回の見直しは、入院料ごとの医療機能を適切に評価し、患者の入棟を円滑にする目的で行われます。この背景には、維持期の治療として高額薬剤を使用する患者が増加し、包括払い病棟での受入れに支障が生じていた実態があります。
生物学的製剤やJAK阻害薬は、2010年代半ば頃から新薬の登場や適応拡大が進み、免疫・アレルギー疾患の維持期の治療として使用される機会が増えています。これらの薬剤を使用する患者は高齢化も進んでおり、脳卒中や骨折等の急性疾患を発症した後、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟に転棟・転院する場面が増えてきました。
こうした患者を受け入れる包括払い病棟では、高額薬剤の費用が入院料に含まれてしまうため、薬剤費が持ち出しとなります。令和7年度の実態調査では、回復期リハビリテーション病棟の約25%が抗がん剤を、約10%がリウマチ治療薬(生物学的製剤含む)を受入困難の理由として挙げていました。さらに、病棟間で除外薬剤の範囲にばらつきがあることも問題でした。たとえば、抗悪性腫瘍剤や医療用麻薬は、地域包括ケア病棟では除外薬剤として出来高算定できる一方、回復期リハビリテーション病棟では包括対象のままでした。
改定ポイント1:回復期リハ病棟等の除外薬剤に3種類の薬剤を追加
改定の第一のポイントは、回復期リハビリテーション病棟入院料をはじめとする複数の入院料の除外薬剤に、3種類の薬剤カテゴリが追加される点です。
追加対象の入院料は、特定入院基本料、特殊疾患入院医療管理料、回復期リハビリテーション病棟入院料、特殊疾患病棟入院料、認知症治療病棟入院料、特定機能病院リハビリテーション病棟入院料の6つです。これらの入院料には従来、インターフェロン製剤、抗ウイルス剤、血友病の患者に使用する医薬品のみが除外薬剤として認められていました。
今回追加される薬剤は、抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対して投与された場合に限る)、疼痛コントロールのための医療用麻薬、エリスロポエチン等の腎性貧血に対して使用する薬剤の3つです。この追加により、これらの入院料の除外薬剤は、地域包括ケア病棟入院料等と同水準になります。
改定ポイント2:精神病棟の特定入院料にも同様の薬剤を追加
改定の第二のポイントは、精神病棟で算定される特定入院料にも、同じ3種類の薬剤カテゴリが追加される点です。
対象となるのは、精神科救急急性期医療入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、精神療養病棟入院料、地域移行機能強化病棟入院料です。これらの入院料でも、抗悪性腫瘍剤、医療用麻薬、腎性貧血治療薬が新たに除外薬剤として出来高算定できるようになります。精神科病棟でも高齢化に伴い悪性新生物を合併する患者が増えていることから、身体合併症への対応を円滑にする意図があります。
改定ポイント3:生物学的製剤とJAK阻害薬を全入院料共通で追加
改定の第三のポイントは、各入院料に共通する除外薬剤として、生物学的製剤とJAK阻害薬が新たに追加される点です。この変更は、今回の改定の中でも特に影響の大きい項目といえます。
追加の対象は、免疫・アレルギー疾患の治療のために入院前から投与が継続されている生物学的製剤とJAK阻害薬です。ただし、他の治療薬で代替不能な場合に限定されます。関節リウマチをはじめとする自己免疫疾患では、生物学的製剤やJAK阻害薬が標準的な維持療法として定着しています。これらの薬剤は高額であるため、包括払い病棟にとって大きな経済的負担となっていました。今回の改定により、すべての包括払い病棟でこれらの薬剤を出来高算定できるようになります。
改定ポイント4:血友病の医薬品の対象を類縁疾患まで拡大
改定の第四のポイントは、除外薬剤のうち、血友病の患者に使用する医薬品の対象範囲が拡大される点です。
従来は「血友病患者における出血傾向の抑制の効能又は効果を有するもの」と規定されていましたが、改定後は「血友病等の患者における出血傾向の抑制」へと対象が広がります。この「等」には血友病類縁疾患が含まれます。実態調査でも、血友病以外の出血傾向の抑制に係る医薬品を受入困難の理由とする病棟は、地域包括ケア病棟で46.5%、回復期リハビリテーション病棟で54.4%に上っていたことから、こうした実態を踏まえた見直しです。
改定ポイント5:除外薬剤の別表を一つに整理・統合
改定の第五のポイントは、複数に分かれていた除外薬剤の別表が一つに統合される点です。
従来、除外薬剤を定める別表は、別表第5の1の2から別表第5の1の5まで、複数のテーブルに分かれていました。入院料の種類ごとに異なる別表が適用されていたため、どの薬剤が除外対象かの確認が煩雑でした。今回の改定では、これらの別表を別表第5の1の2に一本化します。新たな別表第5の1の2は、緩和ケア病棟入院料の除外薬剤(一号)、一般的な包括払い病棟の除外薬剤(二号)、精神科病棟の除外薬剤(三号)の3区分で構成されます。
改定ポイント6・7:介護老健の算定範囲とコロナ抗ウイルス剤の経過措置
改定の第六のポイントは、介護老人保健施設入所者について医療保険で算定できる薬剤の範囲が、新たに整理された別表第5の1の2と揃えられる点です。具体的には、介護老人保健施設入所者について算定できる内服薬・外用薬にJAK阻害薬が、注射薬に生物学的製剤と血友病等の医薬品が追加されます。
改定の第七のポイントは、新型コロナウイルス感染症の抗ウイルス剤に係る経過措置が令和8年5月31日をもって終了する点です。令和6年3月の事務連絡で示された、コロナ抗ウイルス剤を除外薬剤として取り扱う特例が終了します。この経過措置終了後は、コロナ抗ウイルス剤は通常の包括範囲に含まれることになります。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、入院料に包括されない除外薬剤・注射薬の範囲が7つの項目にわたって見直されます。中でも重要なのは、回復期リハビリテーション病棟入院料等への抗悪性腫瘍剤・医療用麻薬・腎性貧血治療薬の追加による病棟間の包括範囲の統一、生物学的製剤・JAK阻害薬の全入院料共通での追加、そして別表の一本化の3点です。これらの見直しにより、高額薬剤を使用する患者の円滑な入棟が促進され、病棟間の不合理な格差が解消されることが期待されます。










