令和8年度診療報酬改定では、地域の拠点的な医療機関を評価する仕組みが大きく変わります。これまで別々に運用されていた「総合入院体制加算」と「急性期充実体制加算」が統合され、新たに「急性期総合体制加算」が創設されます。この見直しの背景には、両加算の評価体系が複雑になっていたこと、そして人口の少ない地域で拠点病院が加算を算定しづらかったことがあります。
今回の改定のポイントは3つです。第一に、旧2加算が「総合性」と「集積性」の両面で一体的に評価される5区分の体系に再編されます。第二に、入院日数に応じた3段階の逓減制が導入され、入院期間の短い段階ほど高い点数が設定されます。第三に、人口20万人未満の地域で救急搬送を最も多く受け入れている病院に対し、一部の施設基準が緩和されます。本稿では、これら3つのポイントについて順に解説します。
改定の背景:なぜ2つの加算が統合されたのか
急性期総合体制加算が新設された背景には、旧制度の3つの課題があります。総合入院体制加算と急性期充実体制加算は施設基準の多くが共通していたにもかかわらず、評価の仕組みが異なっていたため、拠点病院の評価が複雑になっていました。加えて、総合性の高い病院が点数面で不利になるケースも生じていました。さらに、人口の少ない地域では実績要件を満たせず、地域の拠点病院が加算を算定できないという問題もありました。
1つ目の課題は、2加算の施設基準の重複です。総合入院体制加算1と急性期充実体制加算1は、救命救急センター等の救急体制整備や全身麻酔手術件数2,000件以上といった基準で共通していました。一方、総合的な診療体制(7診療科の標榜・入院体制など)は総合入院体制加算のみ、高度な手術実績(消化管内視鏡手術600件以上など)は急性期充実体制加算のみで求められていました。このように基準が重複しながらも評価軸が異なるため、両方の要件を満たす病院であっても、いずれか一方しか届け出ることができませんでした。
2つ目の課題は、点数の逆転現象です。14日間で算定できる点数の総額を比較すると、総合入院体制加算1は3,640点であったのに対し、急性期充実体制加算1は4,240点でした。総合入院体制加算1は7診療科の入院体制や精神科の24時間対応など、より幅広い総合性が求められていたにもかかわらず、手術実績を重視する急性期充実体制加算よりも低い評価となっていました。
3つ目の課題は、人口の少ない地域での算定困難です。人口規模の小さな二次医療圏では、地域の救急搬送の大部分をカバーしている病院であっても、症例数や医療従事者を集約してなお、実績要件を満たすことが難しい状況にありました。実際に、総合入院体制加算3の届出病院の約15%は人口の少ない地域に属しており、こうした地域では上位区分の加算を届け出ている病院はほとんどありませんでした。
新設される5区分の点数体系
急性期総合体制加算は、旧2加算の合計5区分(総合入院体制加算1~3、急性期充実体制加算1~2)を再編し、新たに5区分の体系となります。各区分には入院日数に応じた3段階の逓減制が導入され、7日以内の期間が最も高い点数に設定されています。なお、新制度は旧2加算の「総合性」と「集積性」を一体的に再編した新しい評価体系であり、旧制度の各区分とは求められる基準が異なります。
加算1は、最も高い総合性と集積性を持つ病院を対象とする区分です。点数は7日以内530点、8~11日290点、12~14日210点で、14日間の合計は5,500点です。7診療科の入院体制や精神科の24時間対応体制といった総合性に加え、手術実績でも十分な水準が求められます。旧制度では総合性の高い病院(旧総合入院体制加算1:14日間合計3,640点)が手術実績重視の加算(旧急性期充実体制加算1:14日間合計4,240点)よりも低い評価となっていましたが、新制度ではこの逆転が解消されています。
加算2は、加算1に次ぐ水準の総合性と集積性を持つ病院を対象とする区分です。点数は7日以内470点、8~11日230点、12~14日150点で、14日間の合計は4,660点です。加算1の基準のうち総合性に関する一部の要件が緩和されていますが、手術実績については一定程度高い水準が求められます。
加算3は、地域で総合的かつ専門的な急性期医療を提供し、高度かつ専門的な医療の実績が高い水準にある病院を対象とする区分です。点数は7日以内440点、8~11日200点、12~14日120点で、14日間の合計は4,240点です。加算1のような7診療科の入院体制は必須ではありませんが、地域における総合的な急性期医療の提供体制と、高い手術実績が施設基準として求められます。
加算4は、加算3と同等の体制を備えつつ実績水準がやや下回る病院を対象とする区分です。点数は7日以内360点、8~11日150点、12~14日90点で、14日間の合計は3,390点です。
加算5は、新たに創設された区分であり、人口の少ない地域の拠点病院への配慮を目的としています。点数は7日以内300点、8~11日120点、12~14日60点で、14日間の合計は2,760点です。加算5の詳細は次のセクションで説明します。
人口の少ない地域への配慮:加算5の特例
加算5は、人口20万人未満の地域で救急搬送を最も多く受け入れている病院を対象とした新設区分です。この区分の最大の特徴は、上位区分で求められる一部の施設基準が緩和されている点にあります。
具体的には、加算5を届け出る病院には、地域包括ケア病棟入院料や療養病棟入院基本料に関する届出制限が一部免除されます。人口20万人未満の地域で救急搬送を最も多く受け入れている保険医療機関については、地域包括ケア病棟入院料、地域包括ケア入院医療管理料、療養病棟入院基本料に係る届出制限が適用されません。この緩和は、地方の拠点病院が急性期病棟と回復期・慢性期病棟を併せ持つ実態に配慮したものです。
この特例の背景には、人口の少ない地域の医療事情があります。人口規模の小さな二次医療圏では、救急搬送件数自体は大規模な医療圏と比較して多くないものの、地域の救急搬送の大部分を1つの病院がカバーしているケースが少なくありません。こうした病院では、へき地医療や救急搬送の受入れで地域を支えていても、従来の実績要件を満たすことが困難でした。加算5は、これらの病院が拠点的な機能を適切に評価されるための新たな受け皿となります。
主な施設基準の変更点
急性期総合体制加算の施設基準には、旧制度から引き継がれた要件に加え、いくつかの新たな要件が追加されています。ここでは、加算1を中心に主な変更点を整理します。
第一に、「総合的かつ専門的な急性期医療及び高度かつ専門的な医療」の体制と実績が明確に求められるようになりました。旧制度では「急性期医療を行うにつき十分な体制」という表現でしたが、新制度では総合性と専門性の両面が施設基準に明記されています。
第二に、入院患者の病状急変に対応する体制の確保が新たに加わりました。具体的には、「入院患者の病状の急変の兆候を捉えて対応する体制を確保していること」が施設基準に追加されています。これは院内迅速対応チーム(RRT)等の運用を想定した要件です。
第三に、感染対策向上加算1の届出が要件として明記されました。旧制度の総合入院体制加算では明示されていなかった感染対策の要件が、新制度では加算1の施設基準に組み込まれています。
第四に、重症度、医療・看護必要度の基準が「指数」による評価に変更されました。旧制度では「基準を満たす患者を○割以上入院させる」という割合での評価でしたが、新制度では「特に高い基準を満たす患者の割合に係る指数」と「一定程度高い基準を満たす患者の割合に係る指数」の2つの指数で評価されます。加算1では、必要度Ⅰの場合に特に高い基準の指数3割3分以上かつ一定程度高い基準の指数4割以上、必要度Ⅱの場合に特に高い基準の指数3割2分以上かつ一定程度高い基準の指数3割9分以上が求められます。
第五に、一般病棟の病床数割合に関する基準が追加されました。一般病棟入院基本料等の病床数の合計が、許可病床数の総数から精神病棟入院基本料等の病床数を除いた9割以上であることが求められます。この基準により、急性期病棟を中心とした病院構成が施設基準上も明確に位置づけられました。
経過措置
今回の改定では、既存の届出医療機関に対して3つの経過措置が設けられています。いずれも令和8年3月31日時点で総合入院体制加算を届け出ている医療機関が対象です。
1つ目の経過措置は、地域包括医療病棟に関する基準の免除です。総合入院体制加算の届出を行っている保険医療機関については、当分の間、急性期総合体制加算1~5の施設基準のうち、地域包括医療病棟に係る届出制限の基準を満たしているものとみなされます。
2つ目の経過措置は、一般病棟の病床数割合に関する基準の免除です。総合入院体制加算1または2の届出を行っている保険医療機関については、当分の間、加算2および加算4の施設基準のうち、一般病棟の病床数が許可病床数の9割以上であることの基準を満たしているものとみなされます。
3つ目の経過措置は、地域包括医療病棟入院料における急性期総合体制加算の届出制限の免除です。総合入院体制加算に係る届出を行っている保険医療機関については、当分の間、地域包括医療病棟入院料の施設基準のうち、急性期総合体制加算の届出を行っていないことの基準を満たしているものとみなされます。
まとめ
令和8年度改定では、総合入院体制加算と急性期充実体制加算が統合され、急性期総合体制加算として5区分の体系に再編されます。新制度では、診療科の総合性と手術実績の集積性が一体的に評価され、入院日数に応じた3段階の逓減制が導入されます。加えて、人口20万人未満の地域で救急搬送を最も多く受け入れている病院には施設基準の一部緩和が設けられ、地方の拠点病院が適切に評価される仕組みが整備されました。既存の届出医療機関に対しては3つの経過措置が用意されているため、自院の届出状況と照らし合わせて、新制度への移行計画を早期に検討することが重要です。










