令和8年1月16日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第642回)において、令和8年度費用対効果評価制度の見直し案が了承されました。本稿では、令和7年12月26日に中医協で了解された「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子」に基づく改正内容を解説します。
今回の見直しでは、品目指定手続の簡素化、比較対照技術の選定基準の明確化、追加的有用性の表現変更、価格調整範囲の見直しの4点が主な改正ポイントです。これらの改正は、制度の透明性向上と費用対効果評価のさらなる活用を目的としています。
制度検証の結果|49品目の評価終了と価格調整の実績
費用対効果評価制度の運用状況を振り返ると、制度導入後の新規収載数は医薬品が年間50品目前後、医療機器が年間25品目前後で推移しています。2025年9月1日までに費用対効果評価に指定された67品目の予測市場規模(ピーク時)は、中央値で年間156億円でした。
評価が終了した49品目のうち、費用対効果評価分析が実施されたものは39品目です。このうち公的分析が実施されず企業分析が受け入れられたものが2品目、製造販売業者から不服申立てがあったものは20品目でした。価格調整が行われた38品目における価格調整額の割合は、中央値でマイナス4.29%となっています。
比較対照技術と比べて追加的有用性が示されなかった品目も確認されています。18品目が該当し、そのうち6品目ではすべての分析対象集団で追加的有用性が示されませんでした。今後は令和8年9月に中医協で検証報告の議論を行い、制度の透明性確保の観点から分析プロセスの見直しを継続します。
改正ポイント①|評価終了後の品目指定手続の簡素化
費用対効果評価終了後に新たな知見が得られた場合の再指定手続が簡素化されます。従来は薬価算定組織や保険医療材料等専門組織での手続が必要でしたが、今回の改正により、費用対効果評価専門組織から直接中医協総会に品目指定を提案できるようになります。
具体的には、海外評価機関での評価結果等を踏まえた国立保健医療科学院の意見を参考にして、評価に重要な影響を与える知見が得られた品目が対象です。費用対効果評価専門組織が対象品目案を決定し、中医協総会に報告します。総会での審議を経て、H3区分またはH4区分の対象品目として指定される流れになります。
製造販売業者への配慮も設けられています。中医協総会での審議前に、費用対効果評価専門組織から製造販売業者へ意見を付して通知されます。不服がある場合は、指定された期限までに不服意見書を提出し、専門組織に出席して直接意見を述べることができます。
改正ポイント②|比較対照技術の選定基準の明確化
比較対照技術の設定に関する考え方が明確化されました。分析ガイドラインにおいて、比較対照技術は「臨床的に幅広く用いられているもののうち、治療効果がより高いものを1つ選定する」という原則が示されています。
「臨床的に幅広く使用されている」の定義も整理されました。使用患者数のシェアで一律に決めるものではなく、診療ガイドラインに記載があるなど臨床的に標準的な治療法として用いられていることを意味します。治療効果の検討にあたっては、既存の公表された費用対効果評価における追加的有用性の評価も参照されます。
一意的に決めることが難しい場合の対応も明記されました。無作為化比較試験(RCT)における比較対照技術、価格算定上の類似技術、費用対効果の程度等を考慮します。費用対効果の観点から相対的に安価なものを選択することもありえますが、他の要素も踏まえて最も妥当な比較対照技術を決定します。
改正ポイント③|追加的有用性の表現変更
費用対効果評価における「追加的有用性」の表現が変更されます。薬価算定における「有用性」との混同を避けるため、「比較技術に対する健康アウトカム指標での改善」という表現が用いられることになりました。
分析ガイドラインにおいても関連する記載が整備されています。健康アウトカム指標は、臨床的な有効性、安全性、健康関連QOLの観点のうち、評価対象技術の特性を評価する上で適切なもの(真のアウトカム指標など)を用います。比較対照技術に対するRCTのシステマティックレビューを実施し、改善の有無を評価することが基本的な手順です。
健康アウトカム指標での改善が示された場合は、増分費用効果比(ICER)を算出します。改善があると判断できない場合は、費用最小化分析により比較対照技術との費用比較を行います。この場合の結果は「費用削減(同等含む)」または「費用増加」として示されます。
改正ポイント④|価格調整の対象範囲と方法の見直し
価格引き上げの条件が変更されます。従来の「薬理作用等が比較対照技術と著しく異なること」「基本構造や作用原理が比較対照技術と著しく異なる等一般的な改良の範囲を超えた品目であること」という要件が見直されました。新たな要件は「薬理作用等が比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の作用機序を有すること」「基本構造や作用原理が比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の機序を有すること」となります。
追加的有用性が示されない品目の価格調整方法も見直されます。ICERの区分が「費用増加」となった分析対象集団について、従来の有用性系加算部分に価格調整係数を乗じる方法から変更される予定です。新たな方法では、比較対照技術の1日薬価を評価対象技術の1日薬価で除した比を、価格調整前の価格に乗じて調整後価格を算出します。
ただし、令和8年4月以降に評価結果が中医協に報告された品目については、施行が例外的に保留されます。令和8年9月の検証報告の議論終了後に、具体的な方法の詳細を定めた上で価格調整を実施する予定です。価格調整後の下限は価格全体の85%(調整額が15%)とすることを基本に、引き続き議論されます。
今後の検討課題|介護費用・リアルワールドデータ・分析体制
介護費用の取扱いについては引き続き研究が進められます。レカネマブ(レケンビ)の事例で指摘された技術的・学術的な課題を踏まえ、諸外国での介護保険制度や費用対効果評価への活用状況も参考にされます。介護費用を含めた分析については、過去の事例を分析ガイドラインで参考にできるようにしつつ、事例の集積が継続されます。
リアルワールドデータの活用も検討課題です。費用対効果評価におけるリアルワールドデータ活用の課題について整理検討が行われます。データが得られた場合の取扱いについては、諸外国での活用事例を踏まえつつ引き続き検討されます。分析ガイドラインでは、レセプトやレジストリーなど既存の大規模データベースを用いた研究について、研究の質やデータベースの性質、日本への外挿可能性等を十分に説明することが求められています。
分析体制の充実も重要な課題として位置付けられています。現在は立命館大学と慶應義塾大学の2大学が公的分析班として分析を担当していますが、対象品目の増加が予想される中で体制の充実が必要です。厚生労働省は関係学会等に対する制度の周知や人材育成、分析体制への支援を継続します。海外の評価実施機関における実務経験や研究機会を通じた国際的知見の早期導入支援も検討されています。
まとめ|制度の透明性向上と費用対効果評価の活用拡大へ
令和8年度費用対効果評価制度の見直しでは、品目指定手続の簡素化、比較対照技術の選定基準明確化、追加的有用性の表現変更、価格調整範囲の見直しが主な改正点です。これらの改正は、制度の透明性向上と政策決定の説明責任強化を目的としています。
追加的有用性が示されない品目に対する価格調整方法の見直しは、費用対効果評価のさらなる活用に向けた重要なステップです。令和8年9月の検証報告を経て、具体的な運用が定まる予定です。医薬品・医療機器業界は、今後の議論の動向を注視する必要があります。










