精神科医療では、入院前から退院後まで同一の精神保健福祉士が関わる継続的な支援が、地域移行の推進に有効とされています。しかし、これまでの施設基準は「当該病棟に専従の常勤精神保健福祉士が1名以上配置されていること」と定めるのみでした。中医協では、従事できる業務の範囲や業務を行う場所が示されていない点が、課題として整理されています。本記事では、令和8年度診療報酬改定で示された「精神保健福祉士の病棟の専従要件の見直し」の内容と、届出医療機関に求められる実務対応を解説します。
今回の見直しは、病棟に専従配置された精神保健福祉士が病棟外で行える業務を、2つの類型で明確化するものです。第1の類型として、当該病棟の患者の支援を目的とする場合、保険医療機関外への付き添いなど、病棟外での業務が認められます。第2の類型として、本来業務に影響のない範囲であれば、入棟予定の患者や退棟・退院した患者への支援を、病棟以外の場所で行えます。対象は精神保健福祉士配置加算(精神病棟入院基本料)を含む5つの入院料・加算に及びます。なお本項目では、配置人数の変更も点数の見直しも示されていません。
1. 見直しの背景:同一の精神保健福祉士による伴走支援を推進する
見直しの背景には、精神保健福祉士に期待される役割と、病棟専従という配置形態とのズレがあります。中医協の議論では、期待される役割の広がりと、要件の不明確さの2点が課題として示されました。
期待される役割は、入院中の支援にとどまりません。中医協に提出された資料では、精神保健福祉士は入院前の受け入れ調整から、入院中の支援計画の作成、退院後の同行訪問や生活環境調整まで、あらゆる場面でのシームレスな患者支援を担うと整理されています。本人や家族と継続的に関わることで信頼関係を築く点にこそ、この職種の専門性があるという位置づけです。
一方、要件の不明確さは、中医協で課題として明示されました。精神病棟入院基本料の注7に規定する精神保健福祉士配置加算では、「専従の常勤精神保健福祉士が1名以上」とだけ定められています。この点について、中医協の資料(個別事項について(その11)・(その13))は、従事できる業務の範囲や業務を行う場所を今後の議論課題として挙げていました。同資料では、他の入院料についても、病棟に専従であっても病棟の患者に係る院外での指導等を行うのではないかという課題が示されています。
こうした課題を受けて、今回の見直しは「同一の精神保健福祉士による継続的な伴走支援を推進する観点」を基本的な考え方に掲げています。伴走支援とは、支援者が入院前から退院後まで途切れずに患者と並走し、生活の再建を支える関わり方を指します。この考え方に沿って、専従要件の解釈が具体的に書き下ろされました。
2. 見直しの内容:病棟外業務を2つの類型で明確化
見直しの内容は、専従の精神保健福祉士が病棟外で業務を行える場面を、2つの類型として施設基準に明記する点にあります。第1の類型は当該病棟の患者への支援であり、第2の類型は入棟前後・退院後の患者への支援です。両者は認められる条件が異なるため、区別して押さえる必要があります。
第1の類型は、当該病棟の患者の支援を目的とする、病棟外での業務です。改定案では、専従の常勤精神保健福祉士を「病棟を担当する者として当該病棟の患者に関する業務に主として従事するもの」と定義したうえで、当該病棟の患者の支援を目的とする場合には、当該保険医療機関外に付き添うなど、当該病棟外で業務を行うことは差し支えないとされました。資料が示す具体例は「当該保険医療機関外に付き添う等」のみであり、入院中の患者に同行する施設見学などが想定されます。ただし個々の業務が該当するかどうかは、今後の通知や疑義解釈で確認してください。
第2の類型は、入棟予定の患者や退棟・退院した患者への、病棟以外の場所での業務です。こちらは「その業務に影響のない範囲において」という条件が付されたうえで、当該病棟に入棟予定の患者、または当該病棟から退棟もしくは退院した患者への支援に係るものであれば、当該病棟以外の場所で業務を行うことは差し支えないとされました。ここでの記載は「当該病棟以外の場所」であり、第1の類型のような医療機関外への言及はありません。入院前の面談などが想定されますが、認められる場所の範囲は通知や疑義解釈で確認する必要があります。
2つの類型に共通するのは、対象患者が当該病棟に関係する患者に限られる点です。専従要件そのものが撤廃されたわけではなく、病棟の患者に関する業務に主として従事するという原則は維持されています。他病棟の患者を担当する業務や、病棟と無関係な院内業務まで認められた見直しではない点に注意してください。
3. 対象範囲:5つの入院料・加算に同様の取扱いを適用
対象範囲は、精神病棟入院基本料の精神保健福祉士配置加算を筆頭とする、5つの入院料・加算です。いずれも精神保健福祉士の専従配置を求めている点が共通しており、今回の見直しは同様の取扱いとして適用されます。
具体的な対象は、次のとおりです。
精神保健福祉士配置加算(精神病棟入院基本料)
精神保健福祉士配置加算(精神療養病棟入院料の「注5」に掲げるもの)
児童・思春期精神科入院医療管理料
認知症治療病棟入院料
地域移行機能強化病棟入院料
ただし、専従配置の求め方は区分ごとに異なります。認知症治療病棟入院料1の現行の施設基準は、「当該保険医療機関内に専従する精神保健福祉士又は専従する公認心理師がいずれか1人以上」であり、病棟専従ではありません。各区分に見直しがどう反映されるかは、告示・通知で自院の該当箇所を確認してください。
これら5区分の届出医療機関は、いずれも今回の見直しの対象となります。特に地域移行機能強化病棟入院料は、長期入院患者の地域移行を目的とする入院料であり、退院後の生活環境の調整が業務の中心を占めます。同様に、児童・思春期精神科入院医療管理料でも、入院前の相談や退院後の学校・家庭との調整が支援の要になります。専従の精神保健福祉士が病棟外で動けるようになる意義は、これらの病棟で特に大きいといえます。
4. 実務対応:業務範囲の整理と記録の整備を進める
実務対応として、届出医療機関には3つの準備が求められます。ここからは制度上の要求ではなく、筆者が実務上の備えとして推奨する内容です。順に、業務範囲の整理、記録の整備、病棟体制の担保を挙げます。
第1に、認められる業務の範囲を院内で整理してください。今回の見直しは、病棟外業務を無制限に認めるものではありません。どの患者を対象とする、どのような外出であれば専従要件を満たすのか、上記2つの類型に沿った院内基準を文書化しておくと、指導監査の場面で説明しやすくなります。
第2に、病棟外業務の記録を整備してください。専従の精神保健福祉士が病棟を離れる場合、その業務が当該病棟の患者の支援に該当することを、後から示せる必要があります。日時、対象患者、目的、行き先を残す様式をあらかじめ用意しておくと、記録の負担を抑えられます。
第3に、精神保健福祉士の不在時に病棟の支援体制を担保してください。第2の類型には「その業務に影響のない範囲において」という条件が付いています。この条件を満たすには、本来の病棟業務が滞らない体制が前提になります。他職種とのタスクシェアや、複数名での分担を検討しておきましょう。
まとめ:継続的な支援を可能にする、運用の明確化
今回の「精神保健福祉士の病棟の専従要件の見直し」は、同一の精神保健福祉士による継続的な伴走支援を推進するための、運用の明確化です。第1に、当該病棟の患者の支援を目的とする場合、保険医療機関外への付き添いなど、病棟外での業務が認められます。第2に、本来業務に影響のない範囲であれば、入棟予定の患者や退棟・退院した患者への支援を、病棟以外の場所で行えます。第3に、対象は精神保健福祉士配置加算をはじめとする5つの入院料・加算に及びます。届出医療機関は、認められる業務範囲を院内で整理したうえで、記録の様式と病棟の支援体制を早めに整えておきましょう。










