令和8年度診療報酬改定において、特定疾患療養管理料の対象疾患の要件が見直されます。この見直しは、かかりつけ医機能の評価の一環として、プライマリケアを担う医師による計画的な療養管理が適切に行われることを目的としています。
今回の改定では、胃潰瘍および十二指腸潰瘍について、新たな除外条件が設けられます。具体的には、消化性潰瘍のある患者への投与が禁忌である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与を受けている場合、胃潰瘍・十二指腸潰瘍を理由とした特定疾患療養管理料の算定が認められなくなります。この背景には、NDBデータで、主傷病名が胃潰瘍に関連する算定患者(約18.5万人)のうち約6.5%がNSAIDsの内服薬を調剤されていた実態があります。以下、改定の背景、具体的な変更内容、医療機関が確認すべきポイントの順に解説します。
改定の背景:NSAIDs投与下の胃潰瘍管理に対する問題意識
今回の見直しの背景には、特定疾患療養管理料の趣旨と実際の処方状況との乖離があります。
特定疾患療養管理料は、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が、治療計画に基づき、服薬・運動・栄養等の療養上の管理を計画的に行うことを評価する管理料です。この管理料の対象疾患には、長期的な療養管理が必要な疾患が列挙されています。胃潰瘍および十二指腸潰瘍もその対象に含まれてきました。
一方、NDBデータ(令和6年7月診療分)によると、特定疾患療養管理料の全算定患者は約880万人であり、そのうち主傷病名が「胃潰瘍」に関連する患者は約2.1%(約18.5万人)を占めます。この約18.5万人のうち約6.5%が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬を調剤されていました。NSAIDsは消化性潰瘍のある患者への投与が禁忌とされている薬剤です。この実態は、禁忌薬を投与しながら潰瘍の療養管理を行うという矛盾した状況を示しており、「計画的な療養管理」の趣旨にそぐわないと考えられました。
こうした状況を受け、当該管理が適切に実施されるよう、対象疾患の要件を見直すことが今回の改定で決まりました。
具体的な変更内容:胃潰瘍・十二指腸潰瘍にNSAIDs除外条件を追加
今回の改定では、特定疾患療養管理料の対象疾患リスト(別表第一)における胃潰瘍・十二指腸潰瘍の記載方法が変更されます。
現行の別表第一では、「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」がそれぞれ独立した疾患名として記載されています。改定後は、この2つが「胃潰瘍及び十二指腸潰瘍」として統合されたうえで、括弧書きによる除外条件が付されます。
改定後の記載は「胃潰瘍及び十二指腸潰瘍(消化性潰瘍のある患者への投与が禁忌である非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている場合を除く。)」となります。つまり、NSAIDsの投与を受けている患者については、胃潰瘍または十二指腸潰瘍を主病として特定疾患療養管理料を算定できなくなります。
なお、この変更は胃潰瘍・十二指腸潰瘍に限定されたものです。それ以外の対象疾患(悪性新生物、虚血性心疾患、喘息、胃炎及び十二指腸炎など)には変更はありません。
医療機関が確認すべきポイント
この改定を受けて、医療機関では以下の点を確認する必要があります。
第一に、胃潰瘍または十二指腸潰瘍を主病として特定疾患療養管理料を算定している患者について、NSAIDsの処方状況を確認してください。NSAIDsにはロキソプロフェン、ジクロフェナク、イブプロフェンなど多くの薬剤が含まれます。他科からの処方を含め、患者が内服しているNSAIDsの有無を把握することが重要です。
第二に、NSAIDsを投与中の患者で胃潰瘍・十二指腸潰瘍の病名がある場合は、改定後に算定対象外となります。この場合、他の対象疾患が主病として該当するかどうかを確認してください。該当する疾患があれば、そちらを主病として算定を継続できる可能性があります。
第三に、レセプトの算定ロジックや電子カルテのマスタ設定について、改定内容に対応した更新が必要となります。システムベンダーからのアップデート情報を確認し、施行日までに対応を完了してください。
令和6年度からの連続した対象疾患の見直し
今回の改定は、特定疾患療養管理料の対象疾患に関する見直しの流れの中に位置づけられます。
令和6年度改定では、生活習慣病である糖尿病、高血圧性疾患が対象疾患から除外されました。脂質異常症については、家族性高コレステロール血症等の遺伝性疾患に限定されました。一方、アナフィラキシーとギラン・バレー症候群が新たに追加されています。
令和8年度改定では、これに加えて胃潰瘍・十二指腸潰瘍にNSAIDs除外条件が設けられます。この一連の見直しは、特定疾患療養管理料が「かかりつけ医による計画的な療養管理」を評価する趣旨に立ち返り、対象疾患の適切性を精査する方向で進んでいます。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、特定疾患療養管理料の対象疾患のうち、胃潰瘍および十二指腸潰瘍について、NSAIDs投与中の患者を除外する条件が新設されます。この見直しは、禁忌薬を投与しながら潰瘍の療養管理を行う矛盾を解消し、かかりつけ医による計画的な療養管理の適正化を図るものです。医療機関では、該当患者のNSAIDs処方状況の確認や算定可否の再点検といった対応が求められます。










